通級指導を受けている小学一年生の子どもの親です。
漢字を書くのはきらいではないようで、家では楽しそうに書いているのですが、いつもまちがった書き順で書いています。毎回注意した方がいいものでしょうか?
そもそも書き順は正しく書かないといけないのでしょうか?
ふだん私たちが何気なく書いている漢字の書き順、子どものドリルを見て「え、本当はこう書くの?」などと思うことも多いですね。
書き順の学習がなぜ必要なのでしょうか。一緒に考えてみましょう。
もし書き順がなかったら
漢字の筆順(書き順)には、「上から下へ書く」「左から右へ書く」などの基本的な決まりがあります。私たちは、小学校で教えられ、自然にそれらの筆順を身につけていますが、そういった決まりを知らない状態で初めて漢字を書くとしたら、漢字をどのように書くでしょうか? 下から書いたり、右から書いたり、どこから書けばいいか迷ったりしそうですね。漢字を書きはじめたばかりの子どもたちは、そのような状態だと言えるでしょう。
そもそも、なぜ筆順の通りに書いた方がいいのかというと、基本的な筆順に従って書くと形が整い、自然に速く正確な文字を書くことができるからです。また、漢字は、基本的な部首やつくりの組み合わせでできているものが多いので、基本的な筆順を身につけておけば、初めて見る漢字でも類推して書くことができたり、覚えやすかったりします。
そのため、基本的な筆順を最初に身につけておくのは大切なことです。
小学校での筆順指導
では、学校では筆順をどのように指導することになっているのか見てみましょう。
『小学校学習指導要領(国語編・解説)』(平成29年告示)では、書写の1・2年生の指導事項として、次ように解説されています。
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』平成29年7月文部科学省
点画の始筆から送筆,さらに,終筆(とめ,はね,はらい)までを確実に書き,筆順に従って点画を積み重ねながら文字の形を形成していく過程を意識して書くことが大切である。そのように意識して書くことが読みやすい文字を丁寧に書こうとする態度を身に付けることにつながる。(中略)
筆順とは,文字を書き進める際の合理的な順序が習慣化したもののことである。学校教育で指導する筆順は,「上から下へ」,「左から右へ」,「横から縦へ」といった原則として一般に通用している常識的なものである。
小学校低学年では、筆順を意識しながら文字を書くことで、「読みやすい文字を丁寧に書く態度」を身に付けさせたいということですね。
しかし、ここにも書かれているように、「筆順とは、文字を書き進める際の合理的な順序が習慣化したもの」であって、唯一無二の筆順が法律で決まっているというわけではありません。
では、教科書やドリルなどに唯一無二の決まりのように載っている筆順は、どこから来たのでしょうか。これらの筆順は、昭和32年に文部省から出された「筆順指導の手びき」の筆順が元になっており、この手引きには次のように書かれています。
漢字の筆順については、書家の間に種々行われているものや、通俗的に行われているものなどがあって、同一文字についてもいくつかの筆順が行われている。このことが、そのまま学校教育にも行われているのが現状である。(中略)小・中学校の現場におけるこの面の指導は、同一学校、同一学年においても必ずしも統一されているとは言えない。このような指導場の不統一は、児童・生徒に対し筆順を軽視せしめる結果となるのみならず、教師の漢字指導の効果や能率にも影響するところが大きいと思われる。
文科省においては、この指導場の不統一を解決したいと考えて、さきに学識経験者、大学教授、指導主事、現職の学校長、教師の方々十数名に御協力を願って、筆順指導統一に関する原案を作成していただいた。(「まえがき」より)もちろん、本書に示される筆順は、学習指導場に混乱を来たさないようにとの配慮から定められたものであって、そのことは、ここに取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない。(「1.本書のねらい」より)
「筆順指導の手びき」昭和33年文部省
“筆順の不統一が筆順を軽視させることにつながる”かどうかは疑問ですが、あくまでも学習の効果や能率を上げるための統一であり、他の筆順を間違いとするものではないというところが興味深いです。
たしかに、統一した決まりがないと、先生はどのように指導すればよいかわからず、教科書会社もどの筆順を採用するか、困ってしまうかもしれません。(しかし、ここで一つだけに統一せず、「いろいろな書き方があります」としておけば、こんなに筆順に縛られることはなかったかもしれません)
教科書や漢字ドリルの筆順は絶対か
このように教育現場への配慮から統一された筆順が、教科書や漢字ドリルに掲載され、ある意味絶対的なものと認識されるようになってきたと考えられます。
漢字ドリルにはていねいに「まちがえやすい筆順はここです」などと書いてあるので、まじめな先生や子どもが、「それ以外の書き方はまちがいなんだ」と思ったとしても仕方のない面があります。(ちなみに、「部首名」については統一した資料がないので、漢字ドリルには「いろいろな部首名があります」などと記載されています)
指導する先生側としては、テストや入試、漢字検定試験などで筆順が問われるかもしれないため、筆順をまちがえてはいけないという思いで教えてきた面もあるでしょう。しかし、関係各所が筆順の歴史や意味を理解し、たとえば検定試験や入試では問わないということが広く理解されていれば、ここまで筆順にこだわることはなかったかもしれません。
書くことが苦手な子どもの筆順指導
では、書くことが苦手なお子さんに対する指導は、どう考えればよいでしょうか。
学習指導要領解説にもあるように、書きやすさや書く効率という点で、基本的な筆順は最初に身につけた方がよいので、筆順を意識して書かせる指導はした方がよいでしょう。
しかし、たとえば、「右」は左はらいから書く、「左」は横画から書くなど、筆順に迷うものまで正確に覚えるように、子どもが書いている横からいちいち注意した方がいいのかというと疑問です。
写したりなぞったりするだけで精一杯がんばっている子どもに対し、筆順にこだわるあまり、文字を書くことに対する苦手意識をもたせるような指導の仕方は、適切な指導とはいえないのではないでしょうか。たとえちょっと筆順が違っていても、子どもがその時点でできる筆順を意識しながら書いていれば、漢字の学習のねらいは果たしているのではないでしょうか。
指導する側には、それぞれの子どもの発達段階を見つめながら、その学習で本当に身につけてほしいことは何なのかを考えることが望まれます。